1 移転価格税制とは
移転価格税制(Transfer Pricing)とは、同じ企業グループ内の国際取引が、第三者同士の取引価格(独立企業間価格)で行われているかを各国がチェックする仕組みです。
各国は、国境を跨ぐグループ内取引に対し、
「税負担の恣意的な移転(税源浸食)が起きていないか」
を厳しく監視します。
NASDAQを含む米国上場企業は、特に高いコンプライアンス基準が求められます。
2 なぜ移転価格が重要なのか?
上場審査における国際税務リスクの重要性
米国SECは、海外子会社・親会社との取引が以下に該当しないかを重視します。
- 利益の恣意的な移転
- 不適切なロイヤリティ・貸付金利・役務価格
- 税務調査での大幅な課税リスク
誤った移転価格は、
税務調査・追徴課税 → 財務リスク → 上場審査への影響
につながります。
3 どのような取引が対象になるのか?
国・地域をまたぐ以下のグループ内取引は、すべて移転価格税制の対象となります。
貸付(Loan)
グループ間の資金貸借
役務提供
Management / Technical Service
ロイヤリティ
知的財産権の使用料
物品販売・仕入れ
Trading
支店との内部取引
本支店間配分
コストシェアリング
Cost Plus取引
多国籍グループであれば、規模に関係なく適用対象となります。
4 独立企業間価格の算定手法と最適手法の選択
移転価格税制では、関連者間取引が独立企業間価格(Arm's Length Price)に整合しているかを検証する必要があります。そのために、税法上認められた複数の算定手法から、取引の特性に最も適した「最も適切な手法(Best Method)」を選択します。
算定方法は大きく「基本三法」と「政令指定手法」に分類されます。以下では、それぞれの特徴と適用場面を整理し、企業が適切な独立企業間価格を設定する上で重要となる考え方を解説します。
4.1 基本三法(CUP・RP・CP)
税法上まず検討すべきとされる、基本的かつ伝統的な三つの手法です。
4.1.1 独立価格比準法(CUP 法:Comparable Uncontrolled Price Method)
CUP 法は、第三者同士の独立取引における価格と比較するもっとも直接的な手法です。
概要:
- 同種・類似取引における独立企業間価格を取得
- 取引条件の差異(数量、通貨、契約期間など)を調整
- 適正価格を算定し、関連者間取引と比較する
適用例:
- 製品価格の比較可能な市場価格が存在する場合
- 独立第三者へ同一製品を販売しているケース
- グループ貸付の金利設定
特徴:データが揃えば最も説得力が高い。完全比較可能なケースが少なく、適用が難しいシーンも多い。
4.1.2 再販売価格基準法(RP 法:Resale Price Method)
RP 法は、海外子会社が「販売機能」を担う場合に適した手法です。
概要:
- 第三者への販売価格(再販売価格)を基準に
- 独立企業の粗利益率を控除
- 残額を独立企業間の仕入価格とみなす
適用例:
- 親会社が製造し、海外子会社が販社として機能している場合
- ブランドや無形資産を親会社が保有するビジネスモデル
特徴:販売機能の強度を反映しやすい。マーケティング投資や販売活動の差異調整が必要。
4.1.3 原価基準法(CP 法:Cost Plus Method)
CP 法は、製造機能や役務提供を行う子会社に適した手法です。
概要:
- 原価(製造原価・提供原価)を基礎とし
- 独立企業のマークアップ率を調査
- 原価に利益を加算して独立企業間価格を算定する
適用例:
- 受託製造子会社
- 技術支援、バックオフィス等の役務提供
- R&D 子会社
特徴:原価情報が把握しやすく、実務で多用される。マークアップ比較のためのデータが必要。
4.2 政令指定手法(PS・TNMM・DCF)
基本三法で適切な比較が難しい場合に用いる、より分析的な手法群です。
4.2.1 利益分割法(PS 法:Profit Split Method)
複数拠点が価値創出に関与する場合に、全体利益を貢献度に応じて配分する手法です。
概要:
- 取引全体の利益を算出
- 各社の機能・リスク・無形資産への貢献を分析
- 売上・コスト・人員・資産などのキーで利益を按分
適用例:
- 無形資産の共同開発(特許、技術、プラットフォーム)
- 金融、デジタルサービスなど多国間融合型モデル
特徴:各国の貢献度を反映できる。分配キーの設計には高度な分析が必要。
4.2.2 取引単位営業利益法(TNMM 法:Transactional Net Margin Method)
対象会社の利益率を、類似企業の利益率と比較する手法。
実務で最も利用されることが多い「現実的手法」です。
概要:
- 営業利益率(売上ベース、費用ベース、資産ベース)を指標として選択
- データベース等から比較可能企業(Comparable)を抽出
- その利益率レンジに基づき、自社の利益水準を調整
適用例:
- 製造子会社
- 販売子会社
- 単機能のサービス拠点
特徴:データ取得が容易で、実務適用性が高い。個別取引ではなく事業単位での比較となる。
4.2.3 ディスカウント・キャッシュフロー法(DCF 法:Discounted Cash Flow Method)
将来キャッシュフローを現在価値に割り引き、無形資産や事業価値を評価する手法。
概要:
- 将来キャッシュフローを予測
- 割引率(WACC 等)を設定し現在価値を算定
- 算出した価値を基にロイヤリティや売買価格を設定
適用例:
- ソフトウェア・商標・特許などの無形資産取引
- 事業譲渡やグループ再編
特徴:無形資産価値を反映できる。前提設定が恣意的にならないよう高度な専門性が必要。
4.3 手法選択のフロー(実務アプローチ)
移転価格分析は、以下のプロセスで最適手法を特定します。
- 取引の性質を整理(資産取引か役務提供か)
- 比較可能な第三者取引の有無を確認(CUP 法の適用可能性)
- 販売または製造機能が中心なら RP / CP 法を検討
- 基本三法で評価が困難な場合は TNMM・利益分割法へ
- 無形資産評価が必要な場合は DCF 法を検討
このように、基本三法 → 政令指定手法の順に検討し、最も合理性の高い算定方法を選択することが、税務当局からも求められています。
4.4 Key Takeaways(重要ポイントまとめ)
移転価格税制では「最も適切な手法」を選択することが必須
基本三法(CUP・RP・CP)はまず検討すべき伝統的手法
取引が複雑な場合は、利益分割法や TNMM、DCF などの分析手法が必要
データ取得可能性・機能分析・無形資産の貢献度が手法選択に影響
独立企業間価格の設定は、税務リスク管理だけでなく、企業グループの経営・財務戦略とも密接に結びついている
5 多国籍グループの取引例(HCグループを例に)
(1) 米国HCE → 日本HCAへの貸付
適用手法:CUP法
市場金利に基づき設定することで、税務リスクを回避。
(2) 米国HCE → 日本HCへの役務提供(Management Service)
適用手法:CP法
コストに一定のマークアップを加える。
(3) 米国HCF → 日本支店(内部取引)
実態は内部取引だが、税法上は別法人と同様に独立企業価値を算定。
適用手法:CP法または同業他社利益率比較
6 移転価格の不備によるリスク
国際企業における移転価格の誤りは、以下の重大リスクに直結します。
税務調査での追徴課税
数億〜数十億規模の追徴課税リスク
二重課税
日本と海外の双方で課税される可能性
SEC審査での指摘
開示義務の増加と審査長期化
上場延期リスク
財務数値の訂正による信頼低下
米国上場企業では、移転価格は
「必須のコンプライアンス領域」と位置付けられます。
7 よくある質問(FAQ)
Q. グループ規模が小さくても移転価格の対象になりますか?
A. はい。規模に関係なく対象です。文書化義務の有無とは別問題です。
Q. どの国の移転価格ルールを優先すべきですか?
A. 基本は OECDガイドラインが国際標準。ただし各国ローカルルールに注意が必要です。
Q. 上場審査にどこまで影響しますか?
A. 取引が不透明だと SEC から開示拡張を求められ、審査が長期化することがあります。
8 まとめ
移転価格は、NASDAQ上場準備・上場後のいずれのフェーズでも、国際税務リスクと投資家からの信頼に直結する領域です。
自社グループの取引が適切かどうか不安な場合は、早い段階で専門家によるレビューを受けることをおすすめします。
※免責事項:本ページの内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の案件についての法的・税務的アドバイスではありません。具体的な判断・対応については、必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。