吉通貿易株式会社(Yoshitsu Co., Ltd.)は、日本国内および海外市場向けに美容・健康関連製品や日用品の輸入・販売、ドラッグストア運営、EC事業などを展開する企業である。同社は、事業拡大および資本市場へのアクセスを目的として、2022年1月18日にNASDAQ Capital Marketへ上場し、米国預託証券(ADS)を通じて約2,500万ドルの資金調達を実施した。本稿では、同社の上場プロセス、資金調達スキーム、IPOコストの構造、上場後の資本政策と事業展開を整理し、日本企業が米国IPOを検討する際の参考となるポイントを明らかにする。
企業概要
会社名
Yoshitsu Co., Ltd. (吉通貿易株式会社)
ティッカー
TKLF
上場日
2022年1月18日
市場
NASDAQ Capital Market
業種
小売・EC
事業内容
美容・健康製品販売、ドラッグストア
1 上場スキームと資金調達の概要
吉通貿易は、6,000,000 ADS を 1 ADS = 4.00 米ドルで発行し、公募により総額約 24,000,000 米ドルを調達した。オーバーアロットメントが行使された場合は最大 6,900,000 ADS となり、総募集額は最大で約 27.6 百万ドルとなる可能性があった。
資金調達サマリー
発行ADS数
6,000,000株
公募価格
$4.00/ADS
調達総額
約$24M
実質調達額
約$25.4M
引受手数料・諸費用控除前の実質調達資金は約 25,392,000 米ドルである。上場スキームは ADS 発行によるもので、取引所は NASDAQ Capital Market、ティッカーシンボルは「TKLF」となった。
米国市場での上場、特に NASDAQ Capital Market は、規模が中堅の企業にとって比較的アクセスしやすい市場であるが、英文開示、監査、ガバナンス要件等、事前準備は広範に及ぶ。
2 上場プロセスとタイムライン
吉通貿易の上場に向けたプロセスは以下の通りである。
上場タイムライン
2020年12月23日
DRS(Draft Registration Statement)提出
2021年8月
Form F-1提出
2021年12月23日
F-1有効化(SEC審査完了)
2022年1月18日
NASDAQ Capital Market上場
DRS提出から上場まで約13ヶ月 - 標準的な期間でプロセスが進行
SEC(米国証券取引委員会)とのコメント対応や再提出を伴い、結果として標準的な期間でプロセスが進行したと評価できる。
日本企業が米国IPOを検討する際、最低でも1年前後の準備期間が必要になることを示す事例と言える。
3 IPOコストと費用構造
吉通貿易のIPOに係る公式費用は約 1,677,682 米ドル である。
IPOコスト分析
総IPO費用
$1.68M
調達額に対する費用比率
約6〜7%
調達額(約 25百万ドル)に対する費用比率は約6〜7%であり、米国IPOとしては効率的に資本調達が行われた
米国IPOにおける費用構造の特徴として、以下が挙げられる。
- SEC登録料、FINRA提出費用、NASDAQ上場費用
- 法務費用(英文開示、契約、証券規制対応)
- 会計・監査費用(米国基準対応、過年度監査)
- 印刷・開示資料作成費用
- 引受手数料
これらのうち、法務および会計関連費用が費用総額の大部分を占めることが一般的である。公式手数料自体は数万ドル規模に限られるため、米国上場においては「外部専門家費用」が実務的コストの中心となる。
4 上場後の資本政策と資金使途
上場後の約2年で、同社は追加の資金調達を実施している。
2024年1月、機関投資家向けに 5,970,152 ADS の追加発行 を実施し、1 ADS = 0.67 USD で約 4,000,000 USD を調達した。ワラントも発行されており、将来的な希薄化の可能性を含む資本政策となっている。
資金使途
- 新規出店および事業拡大
- フランチャイズ事業の強化
- ブランドマーケティング投資
- 物流・人材・インフラ整備
調達資金を成長投資へ充当する意図が明確である。
5 上場後の業績および事業変化
2023年3月期の総売上高は 169,724,346 米ドル であり、前年から減少している。
セグメント別では以下の構造となっている。
フランチャイズ・卸売事業
増加
EC・直営店舗事業
減少
業績の変動を踏まえて、事業ポートフォリオの最適化が求められる局面にある。
米国上場を通じて資本アクセスを確保した一方、収益構造の改善やチャネル戦略の見直しが求められるなど、上場後の経営課題も明確化している。
6 所見と示唆
吉通貿易のNASDAQ上場は、消費財・小売企業が海外市場で資本調達を実現した事例として評価できる。
特に、調達額に対するIPO費用が6〜7%に抑えられた点は、コスト効率の高い上場例である。
一方で、上場後の売上減少や増資に伴う希薄化、国際市場での競争環境等、米国上場=即成長とはならない現実も示唆している。
したがって、日本企業が米国IPOを検討する際には、以下の点が重要となる。
米国IPO検討時の重要ポイント
- 上場後の事業戦略と資金使途の明確化
- ガバナンス・情報開示体制の継続的整備
- 市場環境に応じた柔軟な経営判断
吉通貿易の事例は、米国資本市場を活用して事業拡大を図るモデルとして有用であると同時に、上場後の経営実行力が企業価値の差異を生むという課題を示すものでもある。
Yoshitsu上場事例のポイント
- DRS提出から上場まで約13ヶ月の標準的プロセス
- IPO費用は調達額の約6〜7%と効率的
- 約$25.4Mの資金調達を実現
- 上場後も追加資金調達を実施し、成長投資を継続
- 業績変動と事業構造転換の課題が明確化