NASDAQ上場のフォーム選択と機関設計
NASDAQ上場において、「S-1(米国基準)」と「F-1(外国企業特例)」の選択は、上場後のガバナンス体制と維持コストを決定づける大きな分岐点です。本稿では、多くの日本企業にとって現実的な選択肢となる「F-1」の戦略的メリットと要件について解説します。
1 S-1とF-1:適用されるルールの前提条件
両者の大きな違いとして、「どの国の法律・ルールをベースに組織を構築するか」という点が挙げられます。ただし、これを選択するには一定の前提条件があります。
適用対象:
米国企業、または「外国企業」の要件を満たさない企業
概要:
原則として、米国法(SOX法、Dodd-Frank法など)およびNASDAQルールに準拠する必要があります。
適用対象:
Foreign Private Issuer(FPI)の要件を満たす企業
F-1を選択するには、議決権の50%以上が米国居住者に保有されていないこと、または事業の大半が米国外であることなど、FPI要件を満たすことが求められます。
概要:
「外国企業」として扱われるため、NASDAQルールの一部免除や、自国の法律(日本の会社法)に基づいた組織作り(ホームカントリー・プラクティス)が認められるケースがあります。
2 機関設計(ガバナンス体制)の比較
それぞれのフォームを選択した場合、会社の組織図や手続きは一般的に以下のように異なります。
パターンA:S-1を選んだ場合(完全米国式)
米国企業と同様、原則として厳格な委員会設置が求められます。
↓
取締役会(※過半数が独立社外取締役であることが求められる)
├─ 指名委員会(独立取締役で構成)
├─ 報酬委員会(独立取締役で構成)
└─ 監査委員会(独立取締役で構成)
取締役会の中に3つの委員会を設置する必要があります。これらを構成する「独立社外取締役」の確保や、場合によっては日本の監査役制度の見直しなど、比較的大きな組織変更が必要となる可能性があります。
パターンB:F-1を選んだ場合(日本式ハイブリッド)
日本の「監査役会設置会社」の形態を維持したまま上場できる可能性があります。
↓
取締役会 ──(連携)── 監査役会
(社内取締役中心でも可) (会計監査人・監査役)
NASDAQへの申請(Notification)等を行うことで、ホームカントリー・プラクティス(自国の慣習)の適用が認められる場合があります。具体的には、「日本の監査役会は、米国の監査委員会(Audit Committee)と同等の機能を有する」と位置づけることで、3つの委員会設置が免除されるケースが一般的です。既存の経営体制を維持しやすい点が特徴の一つと言えます。
3 比較まとめ:コストと手間の違い
S-1とF-1の違いを整理すると以下のようになります。特に「株主総会」に関する規定の違いは、上場後の運用に影響を与える要素となります。
| 項目 | S-1(米国基準) | F-1(日本基準活用) |
|---|---|---|
| 対象法規制 | 米国法のみ (SOX法、NASDAQ Rule 5605等) |
米国法 + 日本の会社法 (NASDAQ Rule 5615等) |
| 必須機関 | 指名・報酬・監査の3委員会 (完全独立性が原則) |
取締役会、監査役会 (日本の監査役制度で代替可能な場合あり) |
| 株主総会 | 米国ルールに基づき実施 (Proxy Statement必須) |
年次株主総会の開催義務免除の可能性 (Rule 5620) ※日本の会社法に従って開催 |
| 日本での開示 | 米国基準のため、日本との二重管理の可能性 | 日本に上場しない場合、有価証券報告書の提出義務が生じないケースが多い |
4 私たちが「F-1」を推奨するケースが多い背景
HeartCore Financialでは、日本企業のNASDAQ上場において「F-1」の活用をご提案するケースが多くあります。これは上場審査の通過だけでなく、上場後の「維持コスト(ランニングコスト)」や「組織の安定性」を考慮してのことです。
「S-1」では、要件を満たす独立社外取締役の採用や権限委譲が必要となる場合がありますが、「F-1」であれば、現在の経営体制や強みを維持しながらの上場が検討しやすくなります。
F-1企業(FPI)は、米国ルールにおける年次株主総会の開催義務や、「Proxy Statement (株主総会招集通知の参考書類に相当)」の作成・配布義務が免除される場合があります。これにより、実務上のコストや工数の抑制につながることも期待できます。
日本の「監査役」が、米国の「監査委員会」の代替として認められるスキーム(Audit Committee exemption)を活用するには、NASDAQへの適切な通知などが必要です。
5 おわりに
NASDAQへの上場は、企業の成長にとって大きな手段となります。それぞれの企業の状況に合わせ、日本の法制度の利点を活用できる「F-1」のスキームを検討することは、持続可能なガバナンス体制を構築する上で、有力な選択肢の一つと言えるでしょう。
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