この記事の要約(Key Takeaways)
- 監査の重要性: 米国での本格的な資金調達においては、「PCAOB基準の監査」完了が重要なステップとなるケースが一般的です。
- 未了時のアプローチ: 監査完了までの期間は、Regulation D(適格投資家)やRegulation S(米国外)を活用したブリッジファイナンスも有力な選択肢の一つです。
- 法人格の検討: 上場後の管理コストを抑えるなら「F-1(日本法人)」、資金調達手段の多様性をとるなら「S-1(米国法人)」といった視点での比較検討が推奨されます。
- 会計基準への対応: J-GAAPからUS-GAAPへの組み替え(Conversion)には時間を要するため、早期の資金計画と専門家連携がスムーズな進行のポイントとなります。
米国市場への上場を目指す日本企業にとって、大きなハードルの一つとなるのが「上場前の資金調達(プレIPOラウンド)」です。米国証券取引委員会(SEC)のルールの下では、日本国内とは異なるアプローチが求められ、特に「会計監査の進捗」や「法人格の選択」によって、取り得る選択肢が異なってきます。本記事では、NASDAQ上場を目指す企業が押さえておくべき、資金調達の基本的な考え方と戦略について解説します。
1 資金調達の選択肢を左右する「監査(Audit)」
米国での資金調達において、重要な分岐点の一つとなるのが「監査が完了しているか、未了か」という点です。ここで留意すべきは、米国上場で求められる監査とは、一般的に「PCAOB(公開会社会計監視委員会)に登録された監査法人による、US-GAAP(またはIFRS)基準での連結財務諸表監査」を指すということです。
米国証券法(1933年法)の投資家保護の原則
米国証券法(1933年法)は投資家保護の観点から情報開示を重視しており、この監査済み財務諸表が揃っていない段階では、米国の一般投資家から広く資金を募るハードルは極めて高くなります。
そのため、監査プロセスが完了するまでは、プロ投資家や海外投資家を対象としたスキームを中心に検討を進めるケースが一般的です。
2 監査未了時の「ブリッジファイナンス」のアプローチ
監査が完了する前(US-GAAPへの組替やPCAOB監査の進行中)であっても、事業成長のための資金は必要となります。このフェーズで検討される主な選択肢として、以下の2つの規制(Regulation)を活用したブリッジファイナンスが挙げられます。
Regulation D(Rule 504等)
適格機関投資家などを対象とする「Reg D」の中でも、Rule 504(12ヶ月で1,000万ドル上限)等は、連邦レベルでの特定情報開示要件が相対的に柔軟であるため、監査完了前の資金調達手段として活用されることがあります。
主な特徴
- 適格機関投資家(Accredited Investors)向け
- 12ヶ月で最大1,000万ドルまで調達可能(Rule 504の場合)
- SECへの登録が不要で、開示要件が比較的柔軟
Regulation S(Reg S)
これは「米国外での証券発行」に関する免除規定です。具体的には、米国の証券規制が直接及ばない日本国内や、アジア・中東等の投資家から資金を調達するルートとなります。
主な特徴
- 米国外の投資家向けの証券発行が対象
- 米国証券法の登録義務から免除
- 日本、アジア、中東などの海外投資家からの資金調達に活用
実務的な戦略
実務的には、「監査完了まではReg S(米国外)やReg D(米国の適格投資家等)を活用して資金を確保し、体制が整った段階で本格的な公募へ移行する」というスケジュールを描くことが、一つの有効な戦略となり得ます。
3 「米国法人(S-1)」か「外国法人(F-1)」か
監査完了後の本格的な調達やIPOを見据える際、次に重要となるのが「発行体(Issuer)の法人格」の選択です。
この選択は、「資金調達の多様性」を優先するか、「上場後の管理コストの最適化」を優先するかという経営判断の一つと言えるでしょう。
F-1(外国民間発行体 / FPI)ルート
日本法人が主体となって上場申請を行う場合、通常はF-1フォームを使用します。
メリット
- 四半期報告(10-Q)の免除
- 内部統制報告(SOX法404条)の一部猶予
- 上場後の運用負担が軽減される
注意点
米国法人限定の制度(Regulation CFなど)は対象外となる傾向があります。
S-1(米国内国法人)ルート
米国に持株会社を設立(Flip-up等)し、米国企業として上場するルートです。
メリット
- 幅広い資金調達手段へのアクセスが可能
- Regulation CF、Regulation A+などの活用も視野に入る
注意点
米国企業(Domestic Issuer)として扱われるため、上場維持コストや開示義務の負担が増加する可能性があります(四半期報告義務、SOX法404条の完全適用など)。
経営判断のポイント
「資金調達の多様性」を優先するか、「上場後の管理コストの最適化」を優先するか。
これは初期段階で十分に検討すべき経営判断の一つと言えるでしょう。
4 「会計基準」への対応について
多くの日本企業が直面する課題として、日本の会計基準(J-GAAP)と米国基準(US-GAAP)等の差異が挙げられます。
法令上の要件
法令上の要件を満たすためには、単に過去の財務諸表を提出するだけでなく、「米国基準への組み替え(Conversion)を行い、適切な監査を受ける」というプロセスが必要となるケースが大半です。
準備の質が成功のカギ
このコンバージョンや監査に要する期間を適正に見積もり、その間の資金計画(ランウェイ)をどのように設計するか。
この準備の質が、プロジェクトの円滑な進行において重要なポイントとなります。
US-GAAPとJ-GAAPの主な差異(例)
収益認識基準
US-GAAP(ASC 606)とJ-GAAPでは、収益認識のタイミングや方法に差異があります。
連結範囲の判定
US-GAAPではVIE(変動持分事業体)の概念があり、実質的支配の判定が重要です。
リース会計
ASC 842の適用により、オペレーティングリースもバランスシートに計上する必要があります。
ストックオプション
米国基準では公正価値での費用計上が求められ、評価方法にも専門的な判断が必要です。
おわりに
米国NASDAQ上場を目指す日本企業にとって、資金調達と監査戦略は密接に結びついています。監査の進捗状況、法人格の選択、会計基準への対応、そして資金計画の設計――これらを総合的に捉え、早期に専門家チームを組成することが、プロジェクト成功の重要な鍵となります。
HeartCore Financialは、これまで数多くの日本企業のNASDAQ上場を支援してきた実績をもとに、資金調達から監査、上場準備まで一貫したアドバイザリーサービスを提供しています。
免責事項
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・会計・税務アドバイスを構成するものではありません。具体的な案件については、弊社のネットワークから専門家を紹介いたします。
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