日本企業がNASDAQなど米国市場への上場を目指す際、会計基準の差異(日本基準 vs 米国基準 US GAAP)が大きなハードルとなることがあります。中でも特に注意が必要なのが、ASC 810「連結(Consolidation)」におけるVIE(Variable Interest Entity:変動持分事業体)の概念です。
⚠️ よくある誤解
「株式を持っていないから、連結対象ではない」
「議決権が過半数に満たないから、関係会社に過ぎない」
日本基準や一般的な会社法の感覚でこのように判断していると、米国基準の監査において根本的な修正を求められる可能性があります。本記事では、米国会計基準特有の「実態重視」の連結判定について解説します。
1 議決権(VOE)から実態(VIE)へ
これまでの一般的な連結判定は「議決権の過半数を持っているか」というVOE(Voting Interest Entity)の基準が中心でした。しかし、過去の会計不祥事(エンロン事件等)を教訓に、米国会計基準では「形式的な議決権」よりも「経済的な実態」を重視する傾向が強まっています。
ASC 810では、以下の状態にある場合、持分比率に関わらず連結の検討が必要となる可能性があります。
- 対象会社のリスクを自社が負担している
- 対象会社の事業活動を実質的にコントロールしている
2 VIE連結判定の3つのステップ
米国基準での連結判定は、慎重なプロセスを経て行われます。特に以下の3点は重要な論点となります。
① 対象は「VIE」に該当するか?
まず、対象となる会社が一般的な会社(VOE)ではなく、VIE(変動持分事業体)としての特性を持っているかを確認します。例えば以下のようなケースがVIEと判定される可能性があります。
過小資本(Thin Capitalization)
事業遂行に必要な十分な自己資本を持っておらず、追加の資金援助なしには損失を吸収できない状態。
権限の欠如
株主が実質的な意思決定権を持っていない状態。
② 「変動持分」を持っているか?
次に、自社がその会社に対して「変動持分(Variable Interest)」を持っているかを確認します。ここで重要なのは、「株式」だけが判断基準ではないという点です。
以下を通じて、相手先の業績悪化時に自社が損失を被る(あるいは利益を得る)関係にある場合、「変動持分」を有していると見なされる可能性があります:
- 貸付金
- 債務保証
- デリバティブ契約
- 業務委託契約
③ 自社は「主たる受益者」か?
最後に、自社がそのVIEの「主たる受益者(Primary Beneficiary)」であるかを判定します。一般的に、以下の2つの要件を共に満たす場合、連結対象となる可能性が高まります。
パワー(Power)
その会社の事業活動(最も重要な経済的活動)を指図する実質的な権限を持っている。
損益(Economics)
その会社から生じる重要な損失を負担する義務、または利益を受け取る権利を持っている。
3 よくある落とし穴:持分0%の「関連当事者」企業
実務上、特に見落としがちなのが「関連当事者(Related Party)」が関与するケースです。
ケーススタディ
例えば、「自社のCEOが個人的に100%出資している別会社(A社)」があるとします。自社はA社の株式を1株も持っていませんが、A社に対して多額の貸付を行っており、A社がその資金で運営されている場合を想定してください。
形式的な判断
持分比率は0%です。
実態(ASC 810の視点)
- CEO(関連当事者)を通じて、実質的な支配力(パワー)が及んでいる可能性がある。
- 貸付金を通じて、A社の事業リスク(経済的損益)を自社が負担している可能性がある。
このようなケースでは、米国会計基準上、A社を連結範囲に含めるべきと判断される可能性が十分にあります。
おわりに
米国市場への上場準備においては、契約書や資金の流れ、人的関係を含めた「経済的実態」を精査し、連結範囲を確定させることが極めて重要です。
「株式を持っていないから大丈夫」と予断を持たず、早い段階で専門家と連携し、適切な会計処理方針を固めることを強く推奨いたします。
免責事項
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・会計・税務アドバイスを構成するものではありません。具体的な案件については、弊社のネットワークから専門家を紹介いたします。
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