米国NASDAQ市場等への上場を目指すプロセスにおいて、プレIPOラウンドでの資金調達や、既存株主の流動性確保は重要な検討事項となります。
米国証券法(Securities Act of 1933)では、証券の発行・売却にあたりSEC(米国証券取引委員会)への登録と目論見書の作成が原則とされていますが、一定の条件を満たすことでこれらが免除される「登録免除規定(Exempt Offerings)」が設けられています。
本稿では、日本企業が米国市場を目指すにあたり、一般的に検討される主要な免除規定(Regulation D, S, A, Rule 144等)の概要について解説します。
1 資金調達(Primary Market)における主要規定
上場前の資金調達において、S-1/F-1フォーム(届出書)を提出せず、適法に資金調達を行うために参照される主な枠組みです。
Regulation D:米国投資家からの調達(私募)
米国のベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家から資金調達を行う際、多くのケースで利用される規定です。
Rule 506(b) [Traditional Private Placement]
概要:
一般勧誘(広告やSNSでの公募)を行わず、独自のネットワークや紹介を通じて資金を募る手法です。
投資家要件:
原則として「適格投資家(Accredited Investors)」を対象とすることが一般的です。
特徴:
発行体による投資家の適格性確認プロセスが比較的簡易であるため、実務において広く採用される傾向にあります。
Rule 506(c) [General Solicitation]
概要:
JOBS法により導入されたルールで、Webサイト等での一般勧誘が可能となる点が特徴です。
留意点:
投資家が適格投資家であるか否かについて、確定申告書や資産証明等を用いた厳格な検証が発行体に求められます。
Regulation S:米国外投資家からの調達(オフショア)
日本企業が国内やアジア圏で調達を行う際、頻繁に参照される規定です。「米国の投資家が関与しない取引」について、米国証券法の適用範囲外とする考え方に基づきます。
Category 1(日本企業向け)
対象:
米国市場に「実質的な利害(SUSMI)」がない企業が対象となります。未上場の日本企業の多くは、このカテゴリーに該当すると考えられます。
特徴:
待機期間や転売禁止期間などの制約が比較的少なく、スムーズな資金調達が可能となるケースが多いです。
Regulation A (Tier 2):通称「Mini-IPO」
一般投資家から広く資金を集めるための規定です(上限7,500万ドル)。
特徴:
「Testing the Waters (TTW)」と呼ばれる仕組みにより、正式申請前に投資家の需要動向を調査することが可能です。
留意点:
監査済み財務諸表の提出など、上場企業に準ずる開示対応が必要となります。
NASDAQ上場との関係
Regulation Aの活用は、必ずしもNASDAQ上場を保証するものではありません。あくまで「証券登録の免除」手段の一つであり、NASDAQへの上場(Listing)には、別途、株主数や時価総額、ガバナンス等の取引所基準を満たし、審査を経る必要があります。
2 流通市場(Secondary Market)における主要規定
一度発行された株式(譲渡制限付証券)を、既存株主が売却・換金する際に参照されるルールです。
Rule 144:市場売却の出口戦略
未登録証券を一般市場で売却するための免除規定です。上場後のロックアップ期間明けに、創業者や初期投資家が株式を売却する際、本ルールへの準拠が求められるのが一般的です。
保有期間
報告企業(上場企業)の場合は最低6ヶ月、非報告企業の場合は最低1年の保有期間が必要とされています。
売却制限
直近の取引高に基づく「出来高制限(Volume Limitations)」等の要件を満たす必要があります。
Rule 144A:機関投資家向け市場
QIBs(適格機関投資家:運用資産1億ドル以上) の間での取引を対象とした規定です。
活用シーン
日本企業が大型IPOを行う際、グローバルオファリング(海外売出し分)については、このRule 144Aに基づき米国の機関投資家に割り当てられるケースが一般的です。
3 日本企業のための「NASDAQ上場」検討のポイント
日本企業がコンプライアンスを遵守しつつ、効率的に資金調達と上場準備を進めるためには、以下のようなスキームが検討される傾向にあります。
1 【Pre-IPO】戦略的な規定の併用
- 日本の投資家向けには Regulation S を適用。
- 米国のVC向けには Regulation D (Rule 506(b)) を適用。
- ※これらを状況に合わせて併用することで、グローバルな株主構成の構築とコストの最適化を図るケースが多く見られます。
2 【IPO時】グローバルオファリングの活用
- 米国機関投資家への配分には Rule 144A を活用し、プロ投資家からの資金吸収を目指します。
3 【Post-IPO】エグジット管理
- 役員や大株主による売却は、Rule 144 の要件(保有期間・数量制限)に沿って管理し、インサイダー取引規制等にも十分配慮した上で実施することが重要です。
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