HeartCore Enterprises の NASDAQ 上場プロセス

日本発 DX 企業における米国 IPO のモデルケース

日本企業による米国 IPO は、テクノロジー・SaaS 企業を中心に増加傾向にありますが、DX(デジタルトランスフォーメーション)・CXM(顧客体験管理)領域での上場事例は限定的です。

HeartCore Enterprises, Inc. は、2022年2月にNASDAQ Capital Marketへ上場し、日本発 DX ソリューション企業として米国資本市場へのアクセスを実現しました。本記事では、同社の上場プロセス、戦略的意義、実務上の示唆を詳細に解説します。

企業概要

会社名

HeartCore Enterprises, Inc.

ティッカー

HTCR

上場日

2022年2月10日

上場市場

NASDAQ Capital Market

業種

DX・CXM ソリューション

上場スキーム

S-1(普通株)

調達額

約13.95M USD

アンダーライター

Boustead Securities

代表者

神野純孝(かみの・すみたか)氏

CMS ソリューションを国内外へ展開してきた実績を持ち、テクノロジーとコンサルティング双方に精通した経営者として知られる。

事業概要

2021年に米国デラウェア州で設立された持株会社。日本に拠点を置くハートコア株式会社を中心に、顧客体験管理(CXM)プラットフォームを主力とし、Web 管理、マーケティングオートメーション、データ分析ツールなどを組み合わせ、企業の業務効率化および顧客接点価値の向上を支援。

1.企業概要:DX・CXM ソリューションを中核とする日系テクノロジー企業

HeartCore Enterprises, Inc. は、2021年に米国デラウェア州で設立された持株会社であり、日本に拠点を置くハートコア株式会社を中心に、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援する事業を展開しています。

主要事業領域

1

顧客体験管理(CXM)プラットフォーム

企業の顧客接点価値を最大化するための統合プラットフォーム。Web サイト管理、データ分析、顧客行動追跡を一元化し、パーソナライズされた顧客体験を提供。

2

マーケティングオートメーション

顧客データに基づく自動化されたマーケティング施策の実行支援。リード管理、キャンペーン最適化、ROI 測定を統合的に実施。

3

Web コンテンツ管理システム(CMS)

企業サイトの構築・運用を効率化する CMS ソリューション。多言語対応、セキュリティ、モバイル最適化を標準装備。

4

データ分析・BI ツール

顧客行動データ、売上データ、マーケティングデータを統合分析し、経営意思決定を支援するビジネスインテリジェンスツール。

🎯 ビジネスモデルの特徴

HeartCore は、SaaS × コンサルティングの統合モデルを採用しています。プラットフォーム提供だけでなく、導入支援・カスタマイズ・継続的な最適化支援を行うことで、高い顧客継続率とリカーリング収益を実現しています。

2.NASDAQ 上場概要:S-1 を用いた米国直接上場

HeartCore Enterprises は、S-1(普通株)による直接上場の方式で、2022年2月10日に NASDAQ Capital Market へ上場しました。S-1 上場は開示要件が厳格であり、ガバナンス・内部統制・財務情報の正確性が高いレベルで求められる方式です。

上場の主要項目

項目 内容
上場日 2022年2月10日
市場区分 NASDAQ Capital Market
調達額 約 13.95百万ドル
IPO 費用 約 0.65百万ドル
スキーム S-1(普通株)
アンダーライター Boustead Securities
法務アドバイザー Anthony L.G., PLLC
監査法人 MaloneBailey LLP

⚠️ S-1 上場の特徴

S-1 上場は、開示要件が厳格であり、ガバナンス・内部統制・財務情報の正確性が高いレベルで求められます。SPAC や ADR と比較して、透明性の高い上場スキームとして米国投資家から評価されます。一方、準備期間・コスト・SEC 対応負荷が高いため、高度なプロジェクトマネジメントが必要です。

3.上場プロセス:短期間での SEC 対応を実現

HeartCore Enterprises の上場手続きは、DRS(Draft Registration Statement)の提出から上場まで約 3 か月と、日系企業としても比較的早期にプロセスを完了した点が特徴的です。

主なタイムライン

1

2021年11月12日:DRS 提出

Draft Registration Statement(ドラフト登録届出書)を SEC に提出。SEC による非公開レビュー開始。

2

2022年1月3日:S-1 提出

正式な S-1 登録届出書を SEC に提出。一般公開され、投資家によるレビューが可能に。

3

2022年2月9日:S-1 Effective(有効化)

SEC が S-1 を承認し、有効化。IPO 価格決定、最終的な引受契約締結が可能に。

4

2022年2月10日:NASDAQ 上場

NASDAQ Capital Market で取引開始。ティッカーシンボル「HTCR」で公開。

🔑 成功の鍵

  • SEC コメントへの迅速な対応:SEC からのコメントに対し、法務・会計・経営チームが連携して迅速に回答
  • 財務諸表の有効期限管理:FPI(外国私企業)要件に基づく財務諸表の有効期限を厳密に管理
  • 高度なプロジェクトマネジメント:複数のステークホルダー(アンダーライター、法務、監査法人)を統合管理

4.上場後の取り組み:M&A と米国市場での事業基盤強化

上場後、HeartCore は米国 DX ソリューション企業 Sigmaxyz USA, Inc. の買収を発表しました(Sigmaxyz, Inc. の米国法人)。この M&A により、米国市場での事業基盤を強化し、グローバル展開を加速しています。

M&A による期待効果

① 米国市場における事業基盤の強化

Sigmaxyz の米国顧客基盤・営業チャネルを獲得し、米国市場での販売力を強化。

② 既存サービスとのクロスセル促進

HeartCore の CXM プラットフォームと Sigmaxyz のコンサルティングサービスを組み合わせ、顧客単価を向上。

③ 顧客支援領域の拡大

戦略立案から実装・運用までのエンドツーエンド支援が可能になり、顧客ロイヤルティが向上。

④ プラットフォーム価値の向上

新規機能・サービスの追加により、プラットフォームの競争力が強化され、市場シェア拡大を実現。

At-the-Market Offering(ATM)の活用

HeartCore は、上場後にAt-the-Market Offering(ATM)による追加的な資金調達も実施しています。ATM は、市場価格で機動的に株式を発行できる仕組みであり、株価の希薄化を抑えながら成長資金を調達できる柔軟性の高い資本政策です。

5.本事例から得られる示唆:日本の DX・SaaS 企業における米国 IPO の意義

HeartCore Enterprises の上場事例は、日本企業が米国テクノロジー市場へアクセスする際の実務的示唆を提供します。

SaaS × コンサルモデルは米国投資家の評価軸と親和性が高い

HeartCore のビジネスモデルは、顧客基盤の継続性リカーリング収益性が明確です。米国投資家は、ARR(Annual Recurring Revenue)、チャーンレート、LTV(顧客生涯価値)といった指標を重視するため、SaaS モデルは成長ストーリーを描きやすい特性があります。

FPI(外国私企業)要件への的確な対応が成否を分ける

HeartCore は、財務諸表の有効期限管理開示レベルの透明性を高度に管理しました。FPI 企業は、財務諸表の有効期限が厳格に設定されており(例:最新四半期末から135日以内)、これを逃すと上場スケジュールが大幅に遅延します。高度なプロジェクトマネジメントが必須です。

上場後の M&A・サービス拡張が投資家評価のポイントに

米国資本市場では、上場後の成長戦略が明確であることが重要です。HeartCore は、Sigmaxyz USA の買収により、米国市場での成長ストーリーを具体化しました。投資家は、「調達資金をどう活用するか」を注視しているため、M&A やサービス拡張計画を明示することが株価評価に直結します。

6.まとめ:日本企業による DX・CXM 領域の NASDAQ 上場先行ケース

HeartCore Enterprises は、日本発の DX ソリューション企業が NASDAQ 上場を成功させた代表的事例です。同社の上場プロセスは、日本企業が米国資本市場へアクセスする際の実務的なモデルケースとなります。

① SEC プロセスを短期間で完了

DRS 提出から上場まで約3ヶ月という迅速なスケジュールで上場を実現。高度なプロジェクトマネジメントと SEC 対応力の証明。

② 上場後も積極的な M&A・資本政策を実施

Sigmaxyz USA の買収、ATM による機動的な資金調達など、上場後の成長戦略を明確に実行。

③ グローバル市場での事業展開を加速

米国上場により、グローバル顧客・パートナーからの信頼性が向上し、国際展開が加速

HeartCore Enterprises の示す可能性

米国 IPO を検討する日本企業にとって、HeartCore Enterprises の事例は構造的・実務的に参考となる数少ない日系 DX 企業のケーススタディといえます。DX・SaaS 領域での米国上場を目指す企業は、同社のプロセス・戦略・実行力から多くの学びを得ることができます。

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