NASDAQへの上場準備を進める中で、多くの企業様が直面する課題の一つに「浮動株(Publicly Held Shares)基準」への対応があります。
特に、創業者が株式の大半を保有されているケースでは、市場流通量を確保するためにどのような資本政策をとるべきか、慎重な検討が必要となります。
その際、選択肢の一つとして「上場前に、オーナー保有株の一部を知人や役員等へ譲渡する(相対取引)」という手法が検討されることがありますが、米国証券法の実務においては、この手法が必ずしも浮動株対策として有効に機能しないケースがございます。
本記事では、米国証券法(Rule 144)の観点から、株式譲渡における実務上の留意点を解説いたします。
1 浮動株対策として検討される「株式譲渡」
まず、一般的に検討されがちなケースについて整理します。
- 背景: オーナー(CEO等)が発行済株式の多くを保有しており、浮動株の基準値を満たす必要がある。
- 検討される手法: オーナーが保有する株式の一部(例:10%程度)を、個人的な関係がある第三者や関係会社の役員等へ、市場外で譲渡する。
- 期待される効果: 「所有者が分散されるため、浮動株としてカウントされるのではないか」という期待。
日本の実務感覚では、所有権が移転することで流動性が高まると捉えられることが一般的ですが、米国の法規制においては異なる解釈がなされる可能性が高いため、注意が必要です。
2 米国証券法における「Affiliate」と「Restricted Securities」の考え方
NASDAQ上場審査において、浮動株として認められるためには、その株式が「制限なく市場で売買可能であること」が前提となるケースが一般的です。ここで重要となるのが、米国証券法「Rule 144」に基づく以下の解釈です。
1 譲渡人(オーナー)は「Affiliate(関係者)」とみなされる
米国証券法では、発行体を支配する地位にある方(役員、大株主など)を「Affiliate(アフィリエイト)」と定義します。一般的に、創業社長などはこのAffiliateに該当します。
2 私的な譲渡は「制限付き証券」となる可能性が高い
Affiliateであるオーナーから、登録(Registration)を経ずに市場外で譲渡された株式は、一般的に「Restricted Securities(制限付き証券)」として扱われる傾向にあります。
これは、譲受人が会社と直接関係のない第三者であっても、「Affiliateから取得した」という経緯により、一定期間の保有義務や売却制限が付されるケースが多いためです。
3 NASDAQ基準における浮動株の算定
NASDAQにおける「浮動株(Publicly Held Shares)」の計算においては、通常、以下の項目が除外(控除)されます。
- 役員・大株主の保有分
- 制限付き証券(Restricted Securities)
したがって、オーナーから私的に譲渡を受けた株式が「制限付き証券」とみなされた場合、形式的に株主が分散していたとしても、上場審査上の浮動株数には算入されない可能性があります。
3 一般的な対応策:S-1における「売出し」の活用
では、オーナー保有分を適切に市場へ流通させるためには、どのような手続きが推奨されるのでしょうか。
実務上で広く採用されている手法の一つに、Form S-1(有価証券届出書)を活用した「売出し」があります。
S-1への記載
上場申請書類において、譲渡対象となる株式を「売出し(Secondary Offering)」として登録し、オーナー(または譲受人)を売出株主(Selling Shareholder)として位置づけます。
市場での販売
上場と同時に、証券会社を通じて一般投資家へ販売するスキームを構築します。
このような正規の登録プロセスを経ることで、当該株式は制限の少ない状態で市場に供給され、NASDAQにおいても浮動株として扱われることが一般的です。
4 おわりに
日本と米国では、証券規制や商慣習に異なる部分が多く、日本国内の感覚で資本政策を進めた場合、予期せぬハードルが生じることがあります。
特に「浮動株」の確保は上場審査の重要項目の一つですので、初期段階から日米の法規制の違いを踏まえた資本政策を立案されることをお勧めいたします。
私たちHertcore Financialでは、NASDAQ上場を見据えた資本構成のアドバイザリーを行っております。具体的なスキームのご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・会計・税務アドバイスを構成するものではありません。具体的な案件については、弊社のネットワークから専門家を紹介いたします。
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