米国市場(NASDAQ等)への上場を目指し、グローバルに事業を展開する企業にとって、「国際税務」は重要な検討課題の一つとなります。特に、海外拠点の展開や役員の往来が増える中で、「どこの国で、いくら税金を払うべきか」というルールへの理解を深めることは、予期せぬ課税リスクを低減し、投資家への説明責任(ガバナンス)を果たす上でも有益と言えるでしょう。
本記事では、国際税務の基本概念である「PE(恒久的施設)」と、課税所得の計算ルールである「帰属主義(AOA)」について解説します。
1 国際課税の大原則:「PEなければ課税なし」
国際的な課税ルール(OECDモデル租税条約等)において、外国法人の事業所得に対する課税権は、以下の原則に基づくとされています。
「PEなければ課税なし(No PE, No Taxation)」
たとえ外国法人が日本国内(あるいは日本法人が米国)で収益を上げていたとしても、現地にPE(Permanent Establishment:恒久的施設)を有していない限り、原則としてその国の法人税は課されないというのが一般的な考え方です。裏を返せば、「PEがあると認定された場合、その国の税務当局による課税権が発生し、確定申告義務が生じる可能性がある」ということになります。
※注意事項:配当・利子・使用料などの投資所得に対する源泉分離課税については、別途考慮が必要となる場合があります。
2 何が「PE」とみなされる可能性があるか?(3つの区分)
「支店登記をしていないから大丈夫」とは一概には言えないため、留意が必要です。租税条約および国内法では、主に以下の3つの形態がPEとして定義される傾向にあります。
① 支店PE(Branch PE)
支店、工場、倉庫、鉱山、天然資源の採取場所など、事業を行う「一定の物理的な場所」があるケースです。最も典型的なPEと言えます。
② 建設PE(Construction PE)
建設現場や建設工事等のプロジェクトが該当します。短期間であれば免除されることもありますが、一般的に12ヶ月を超える(日米租税条約等の場合)長期プロジェクトとなる場合、その現場自体がPEとみなされることがあります。
③ 代理人PE(Agent PE)
物理的な拠点がなくても、現地に「契約締結権限を持つ者」がおり、その権限を反復して(常習的に)行使している場合、その人物の活動拠点がPEと判定されるケースがあります。
3 実務上の留意点:「認定PE」と「ホテルPE」
上場準備企業の経営陣におかれましては、「形式(登記の有無)」だけでなく「実態(機能)」で判断されるという点(Substance over Form)に意識を向けることが望ましいでしょう。特に近年、税務調査において議論の対象となりやすいのが「ホテルPE」などの認定リスクと言われています。
リスク事例
海外親会社の役員が、支店のない国(例:日本)のホテルに長期間滞在し、そこで重要な契約の決裁や指揮命令を常習的に行っているような場合。
考え方の一例
そのホテルの部屋が「事業を行う一定の場所」とみなされ、PE認定(課税対象)を受ける可能性も否定できません。
一方で、市場調査、広告宣伝、物品保管など、事業にとって「準備的・補助的な活動」のみを行う場合は、PEとはみなされず課税対象外となるのが一般的です。役員の出張目的や実態の管理も重要と考えられます。
4 課税額はどう決まるか:「帰属主義(AOA)」
仮にPEがあると認定された場合、現地の税務当局にいくら税金を払うべきかについては、現在「帰属主義(AOA:Authorized OECD Approach)」というアプローチで計算されることが一般的です。
帰属主義(AOA)の3つのポイント
独立企業としての擬制
PE(支店等)を、本店とは法的に切り離された「独立した別個の企業」であると仮定して捉える考え方です。
内部取引の認識
本店とPEの間で行われる資金移動や役務提供を「内部取引」とみなし、第三者と取引した場合の適正価格(独立企業間価格 / Arm's Length Price)を用いて損益を計算する手法が採られます。
二重課税の排除
現地で納付した税額については、本国での確定申告時に「外国税額控除」等を適用することで、国際的な二重課税の調整を図る仕組みとなっています。
5 NASDAQ上場を目指す企業への示唆
NASDAQ上場企業として適正なガバナンス体制を構築するためには、以下のポイントを検討しておくことが望ましいでしょう。
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S-1/F-1(有価証券届出書)におけるリスク開示
不測のPE認定による追徴課税は、企業の財務状況に影響を及ぼす可能性があります。未認識のPEリスクがないか、専門家のレビューを受けることも選択肢の一つです。 -
移転価格税制への対応
帰属主義(AOA)に基づき、本店・海外拠点間の取引価格が適正であるか(利益移転とみなされないか)をモニタリングする体制の構築も重要と考えられます。
免責事項
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・会計・税務アドバイスを構成するものではありません。具体的な案件については、弊社のネットワークから専門家を紹介いたします。
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