米国上場の移転価格税制と独立企業間価格
米国市場(NASDAQ等)への上場を目指す日本企業にとって、海外売上比率の拡大は重要な成長要素の一つです。一方で、海外子会社との取引が増えるにつれて、税務コンプライアンスの観点から「移転価格税制(Transfer Pricing Taxation)」への理解も重要になってきます。
本記事では、グローバル経営における重要論点の一つである「移転価格税制」の基本的な考え方について解説します。
1 移転価格税制の基本的な考え方
移転価格税制は、国境を越えるグループ企業間取引において、「課税権の適正な配分」を図るための国際的なルールの枠組みといえます。
日本本社と海外子会社(国外関連者)の間で取引を行う際、その取引価格(移転価格)が市場価格と大きく乖離している場合、結果として一方の国の利益が減少し、もう一方の国の利益が増加することになります。これは、国ごとの視点で見ると「本来徴収できるはずの税金が、他国へ移転してしまっている」という懸念につながる可能性があります。
こうした状況において、グループ内取引であっても「あたかも資本関係のない第三者と取引したかのような価格(独立企業間価格 / Arm's Length Price)」で行うことが、税制上求められるのが一般的です。
2 利益配分と課税リスクの仕組み
移転価格税制において論点となりやすいケースの一つに、日本よりも法人税率が低い国(軽課税国など)に子会社を持つケースが挙げられます。
取引価格による利益の変化(例)
例えば、日本本社が製造した製品(製造原価50)を、海外子会社を経由して販売するケースを想定します。
一般的な取引価格の場合
日本本社が子会社へ「100」で販売すれば、日本には「50」の利益が残り、この利益に対して日本で課税されます。
価格設定が低い場合
仮に日本本社が子会社へ「80」で販売したとします。すると、日本の利益は「30」となります。その分、安く仕入れた子会社側に多くの利益が残ることになります。
このように、グループ全体としての最終利益額が変わらなくても、取引価格の設定次第で「日本で計上されるべき利益」が海外子会社側へ移転していると見なされる可能性があります。
日本の税務当局から、その価格設定が合理的でないと判断された場合、適正価格(この例では100)との差額について、課税所得の更正(修正)を受けるリスクが生じうると考えられています。
また、意図的な租税回避の目的がない場合や、日本と相手国の税率差が大きくない場合であっても、価格設定が市場価格から乖離していると判断されれば、本税制の対象となる点には留意が必要です。
3 「適正価格」をどのように検討するか
では、親子間の価格設定において、どのような基準が参考にされるのでしょうか。
一般的には「比較対象(ベンチマーク)アプローチ」が用いられる傾向にあります。
これは、自社と海外子会社の取引内容と類似した、「資本関係のない第三者同士の取引」を参照し、その価格水準や利益率と比較することで、自社の取引価格の妥当性を説明するという手法です。
4 NASDAQ上場準備における重要性
米国上場を目指す企業にとって、移転価格への対応は、税務面のみならず「ガバナンス(企業統治)」の観点からも重要性が高いと考えられます。
二重課税リスクへの対応
移転価格課税が行われた場合、日本での追加納税が発生する可能性があります。一方で、海外側で既に納税した税金が必ずしも還付されるとは限らないため、結果として「二重課税」の状態となるリスクも想定されます。これは財務上の不安定要因となり得るため、事前の管理が望ましいとされています。
上場審査等における透明性
SEC(米国証券取引委員会)への提出書類や会計監査においても、関連当事者取引(Related Party Transactions)の妥当性は重要なチェック項目の一つとなる傾向があります。
グローバルな資本市場での評価を高める上でも、「なぜその価格で子会社と取引しているのか」を合理的に説明できる体制(ローカルファイルの整備など)を整えておくことが、安定した経営基盤の構築につながると言えるでしょう。
免責事項
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・会計・税務アドバイスを構成するものではありません。具体的な案件については、弊社のネットワークから専門家を紹介いたします。
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