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はじめに

2025年9月3日、投資家保護と市場の健全性を確保する意図のもと、新規上場基準および継続上場基準を強化する発表をした。具体的には、新規上場企業に対する公開株式の市場価値引き上げ、また、継続上場基準を遵守できない企業に対する上場停止・廃止手続きを厳格化するものである。

3つの変更点

  1. 1. 公開株式の最低価値の引き上げ
新規上場企業の純利益基準は、公開株式の市場価値が少なくとも1,500万ドル(1ドル150円換算で約22.5億円相当)でなくてはならない。
2. 迅速な上場停止・廃止措置
上場基準に違反し、且つ時価総額が500万ドル以下の上場企業は、通常よりも早く上場停止または除外措置へ。
3. 中国拠点企業への特別要件
主たる拠点が中国にある企業は、新規上場時の公開株式調達額が最低2,500万ドルでなくてはならない。 

背景

NASDAQは、米国内のクロスマーケット取引環境における「ポンプ・アンド・ダンプ」の疑いがある取引パターンなどのレビューを行った結果として今回の対応を発表した。
「ポンプ・アンド・ダンプ」とは市場操作の一種で、人為的に株式の価値を吊り上げ、投資家が買い始めると操作者は株式を一気に売ることで利益を得るが株価が暴落し、何も知らない投資家は大きな損失を被ることになる。今回の基準変更案は、株式市場環境や企業評価(バリエーション)の発展を反映したものであり、NASDAQの最低流動性基準を調整する目的でもある。これらの強化措置は、株式公開の基準が、発展し続ける株式市場において有効かつ適切なものであり続けるように保証する役割を果たす。
中国拠点企業への特別要件については、過去に設定された「制限市場(restrictive markets)」に関する基準を土台としたものであり、このような市場では米国の公開会社会計監督委員会(PCAOB)による監査が行えないといった問題が発生していた。最低資金調達額の基準を適用することで 、NASDAQは投資家保護を強化し、さらに企業の流動性を強化し、現在の株式市場環境に即して反映することを目指している。

今後の見通し

NASDAQは今後も、市場操作の可能性がある取引行為に関する案件を米国証券取引委員会(SEC)及び金融取引業規制機構 (FINRA)に積極的に通報し続ける方針である。今回の規則改正案は、SECに既に提出しており、承認され次第、速やかに実施することになるだろう。なお、既に上場手続き中の企業には、現行基準のもとで申請を完了できるように30日間の猶予期間を設ける提案も行っている。この猶予期間終了後は、全ての新規上場企業が新しい基準を満たす必要がある。
また、上場企業の上場停止及び廃止を進めるプロセスについては、SECの承認から60日後に新基準を適用することを提案している。今回の規則改正案は、NASDAQが適切な上場基準を提供し、投資家の利益を守ると同時に健全で透明性の高い株式市場を育成するという、リーダーシップを示すものでもある。
今回の基準変更は、IPOを目指す初期成長フェーズにある企業にとっては新たなハードルとなるだろう。特に時価総額が低めの資金調達力が低い企業には特に厳しくなるのではないか。
弊社では日系企業のNasdaq、NYSE American上場のサポートをさせていただいております。記事をお読みいただき、もっと詳しく話を聞きたいという方は、お気軽に弊社までご連絡ください。


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