米国NASDAQ市場への上場は、世界中の投資家からの資金調達を可能にする大きな飛躍の機会です。一方で、海外からの出資を受け入れる際には、日本の「外国為替及び外国貿易法(外為法)」に基づく「対内直接投資管理制度」への対応も重要な検討事項となります。

2025年5月19日の改正法施行により、制度の一部が見直されました。適切な対応が行われない場合、投資計画の変更や株式の売却といった措置が求められる可能性もあるため、IPOスケジュールへの影響を考慮し、事前の確認を進めておくことが望まれます。

本記事では、NASDAQ上場を目指す日本企業が押さえておきたい外為法のポイントと、2025年改正に伴う実務上の留意点について解説します。

1. なぜ「外為法」がNASDAQ上場に関係するのか?

NASDAQに上場するということは、「外国投資家(海外の機関投資家や個人)」が貴社の株主となることが想定されます。

日本の外為法では、国の安全保障等を確保する観点から、外国投資家が日本の「指定業種」を営む企業の株式を取得する際、主に以下のいずれかの手続きを求めています。

  1. 事前届出(Pre-notification):投資実行前に届出を行い、審査(原則30日間)を経る手続き。
  2. 事後報告(Post-reporting):投資実行後に報告を行う手続き。

貴社が「国の安全に関わる重要技術」や「インフラ」に関連する事業を行っている場合、海外投資家からの出資に対して「事前届出」が必要となるケースがあります。これは、IPO時の投資家募集(ロードショー)や割当(アロケーション)において、考慮すべき要素の一つとなり得ます。

2. 貴社は対象?「指定業種」と「コア業種」の確認

手続きの内容は、貴社の事業内容によって区分されます。まずは自社がどの区分に該当するかをご確認ください。

① コア業種(国の安全等を損なうおそれが大きい業種)

特に慎重な管理が求められる分野です。上場企業の場合、外国投資家が1%以上の株式(または議決権)を取得する際、一般的に事前届出の対象となります。

伝統的な安全保障分野

  • 武器
  • 航空機
  • 宇宙
  • 原子力
  • 電力・通信インフラ等

経済安全保障分野(特定重要物資等)

  • 半導体(素材・製造装置含む)
  • 蓄電池
  • 工作機械・産業用ロボット
  • 重要鉱物(レアアース等)
  • 永久磁石、金属3Dプリンタ
  • ドローン(無人航空機)
  • 【2025年追加・検討】 光ファイバケーブル、複合機、船舶用エンジンなど。

② 指定業種(コア業種以外)

これらも事前届出の対象業種ですが、一定の条件(免除基準)を満たすことで、事後報告が可能となるケースが多くあります。

  • 農林水産業、皮革製造業
  • 情報処理サービス・ソフトウェア
  • 放送、通信(コア以外)
  • 警備業 など

Point

自社の事業が単なる「アプリ開発」であっても、使用している技術やサーバーの仕様によっては「サイバーセキュリティ関連(コア業種)」等に該当する可能性があります。専門的な視点での確認が推奨されます。

3. 【2025年5月施行】制度改正による変更点

2025年5月19日より、経済安全保障の観点から事前届出免除制度の適用範囲が見直されました。以下のケースにおいては、原則として手続きの簡略化(免除)が利用できず、事前届出が必要となる方向で制度設計されています。

  1. 「特定外国投資家に準ずる者」からの投資
    外国政府と契約している、あるいは外国法令によって情報提供義務を負っている投資家からの出資については、審査の対象となる場合があります。
  2. 「特定社会基盤事業者」への投資
    コア業種の中でも、特に重要なインフラ(電力、通信、鉄道等)を担う企業への投資は、免除制度の対象外となります。
  3. 過去の違反者等
    過去に外為法違反歴のある投資家などは、事前届出が必要となります。

NASDAQ上場企業への影響

貴社の株式を購入しようとする海外ファンドの中に、特定の外国政府と強い結びつきを持つ主体が含まれている場合、「事前届出免除」が利用できず、法定の審査期間が必要となる可能性があります。

4. 【保存版】事前届出 vs 事後報告:判断の目安

外為法対応においては、「今回の投資案件がどちらの手続きに該当するか」を見極めることが大切です。一般的な分類基準は以下の通りです。

1. 「事前届出」が必要となる主なケース

投資を実行する前に届出を行い、一定期間(原則30日間)の審査を経る手続きです。

項目 内容
対象となる行為 指定業種の上場会社株式を1%以上取得する場合など。
免除が利用できない
(事前届出となる)主な要因
投資家属性: 外国政府・国有企業(認定SWFを除く)、過去の処分歴がある者、または特定外国投資家に準ずる者(2025年追加)に該当する場合。

出資比率と業種: コア業種に対して、10%以上の議決権を取得しようとしている場合(原則として免除対象外)。

2. 「事後報告」で対応可能な主なケース

投資を実行した後、45日以内に報告を行う手続きです。

ケースA:業種が「指定業種以外」の場合

指定業種リストに含まれない事業への投資です。

  • 目安: 議決権取得率が10%以上になる場合に報告が必要となります(10%未満は報告不要となるのが一般的です)。

ケースB:指定業種だが「免除制度」を利用する場合

指定業種(コア含む)であっても、以下の要件を満たすことを条件に事前届出が免除され、事後報告となる制度があります。

【重要】投資家による「遵守誓約」について

免除制度を利用するためには、投資家が以下の基準(免除基準)を遵守することを、届出時に書面等で誓約することが求められます。

基本的な遵守事項:

  • 自ら(または関係者が)役員に就任しないこと。
  • 指定業種の事業の廃止や譲渡を提案しないこと。
  • 非公開の技術情報にアクセスしないこと。

(コア業種の場合の上乗せ基準):

  • 重要な意思決定権限を持つ委員会等に参加しないこと。
  • 取締役会等に期限を付して書面で提案を行わないこと。

5. 実務上の補足(ご留意いただきたい点)

①「10%以上」等の基準は"議決権ベース"

「1%」や「10%」といった閾値の判定は、単なる発行済株式数に対する保有割合ではなく、「総議決権数に対する保有割合(議決権ベース)」で行われる点にご留意ください。NASDAQ上場で種類株(Dual-class stock)を発行する場合などは、持株数と議決権割合が異なるケースがあるため、慎重な確認が望まれます。

6. コンプライアンス上の留意点

必要な届出をせずに投資を受け入れた場合、以下のような措置や罰則の対象となる可能性があります。

罰則規定

  • 事前届出関連: 3年以下の懲役 または 100万円以下の罰金(ただし投資額の3倍が100万円を超える場合は投資額の3倍以下が上限となります)。
  • 事後報告関連: 半年以下の懲役 または 50万円以下の罰金。

行政等の措置

株式の売却等の命令(取得した株式の手放しを命じられる措置)が出される場合があります。

上場企業として、市場からの信頼を維持するためにも、こうしたコンプライアンスリスクには十分配慮する必要があります。

7. NASDAQ上場に向けた準備ステップ

海外上場を円滑に進めるために、以下のステップで準備をご検討ください。

  1. 自社の業種区分の確認
    自社が「コア業種」「指定業種」に該当するか、最新のリストに基づき確認を行います。
  2. 投資家属性の確認
    主要な海外投資家(コーナーストーン投資家等)候補について、その実質的支配者や、外国政府との関係性等を可能な範囲で確認します。
  3. 「誓約」に関するコミュニケーション
    海外投資家に対し、「技術情報へのアクセスを求めない」「役員を派遣しない」といった誓約書への署名が可能か、事前に意向を確認しておくとスムーズです。

おわりに

米国市場への挑戦において、財務や法務の準備に加え、「技術管理・経済安全保障」の観点からのガバナンス構築も重要なテーマとなっています。

外為法の適用判断は専門的な知識を要する分野です。「自社がコア業種に当たるか判断に迷う」「特定の海外投資家からの出資について確認したい」という場合は、専門家への相談をご検討ください。

免責事項

※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・会計・税務アドバイスを構成するものではありません。具体的な案件については、弊社のネットワークから専門家を紹介いたします。

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