Securities Exchange Act of 1934と継続開示
NASDAQのオープニングベルを鳴らしたその時から、企業は新たなルールの適用を受けることになります。それが「1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934)」です。
IPO時の「一回限りの開示」を規定した1933年法に対し、1934年法は「上場廃止になるその日まで続く、継続的な開示義務」を定めています。
本稿では、日本企業が直面する「Form 20-F」の実務や、経営の自由度に影響を与えうる「SOX法」との向き合い方について、最新の規制環境を交えて解説します。
1 「点」の開示から「線」の開示へ
1933年法が「証券を発行する瞬間(Transaction)」のルールであるのに対し、1934年法は「上場企業としての状態(Status)」を常に透明に保つためのルールと言えます。
- 継続開示義務(Continuous Disclosure):
投資家は最新の情報に基づいて売買を行います。そのため、企業は年次報告書や重要な経営決定を、遅滞なく市場に伝えることが求められます。 - 日本企業への示唆:
米国の開示要求は、日本の有価証券報告書以上に、「リスク要因(Risk Factors)」や「MD&A(経営者による財政状態及び経営成績の検討と分析)」における論理的な説明(なぜそうなったのか、今後どうなるのか)を深く掘り下げることが重要となる傾向があります。
2 最初にして最大の壁:Form 20-F vs Form 10-K
日本企業が米国上場する際、戦略的に重要となるのが「外国民間発行体(FPI:Foreign Private Issuer)」というステータスの活用です。
FPIの特権と「Form 20-F」
FPIステータスを持つ企業は、米国企業に義務付けられる「Form 10-K」の代わりに、「Form 20-F(年次報告書)」の提出が認められるのが一般的です。また、四半期報告書(Form 10-Q)の提出義務も免除されます。
ただし実務上は、NASDAQの規則や機関投資家の期待に応えるため、「Form 6-K」を用いて四半期ごとの財務情報を自主的に開示する企業が多く見られます。
「Form 10-K」への移行リスク(FPIステータスの喪失)
FPI資格は恒久的なものではありません。「米国居住者の株主比率が50%を超える」ことに加え、「役員の過半数が米国居住者である」や「資産・事業の過半が米国にある」といった条件を満たした場合、FPI資格を失う可能性があります。
この場合、米国企業と同様の「Form 10-K / 10-Q」の提出義務が生じ、コンプライアンスコストが増大するリスクについても考慮が必要です。
3 経営の自由度を縛る「SOX法」の呪縛
2002年に制定されたサーベンス・オクスリー法(SOX法)は、実質的に1934年法の開示体制を補強するものと位置づけられています。
Section 404(内部統制)の重み
米国のSOX法404条は、日本のJ-SOXのモデルとなりましたが、その厳格さは非常に高い水準にあると認識されています。特に404(b)項(外部監査人による内部統制監査)への対応は、企業にとって少なからぬ負担となるケースがあります。
EGC(Emerging Growth Company)による免除活用
JOBS法に基づく「EGC(新興成長企業)」の要件を満たす場合、上場後最大5年間にわたり、最も負担の重い404(b)監査が免除されます。この制度を理解し、適切に活用できるかどうかが、初期の管理コストを大きく左右する可能性があります。
4 フェア・ディスクロージャーとインサイダー規制
1934年法は、情報の「公平性」についても厳格な姿勢をとっています。
Regulation FD(Fair Disclosure)の実務的遵守
法的に言えば、FPI(外国企業)はRegulation FD(公平開示規則)の適用対象外とされています。しかし、これを「遵守の必要がない」と解釈することには慎重であるべきです。
実務上、世界の機関投資家はReg FD準拠を前提としていることが多く、特定のアナリストへの「選択的開示」は市場の信頼を損なう要因となり得ます。事実上の遵守がスタンダードであると認識しておくのが賢明でしょう。
インサイダー取引規制とRule 10b5-1プラン
役員が自社株を売買する際は、インサイダー疑惑を避けるため、事前に計画された売買プログラム「Rule 10b5-1プラン」を活用するのが一般的です。
なお、2023年のSEC改正により、クーリングオフ期間(設定から取引開始までの待機期間)の義務化など、要件が厳格化されている点にも留意が必要です。
結論:コストではなく「信頼への投資」
Form 20-Fの作成やSOX法対応にかかるコストは、決して小さな額ではありません。しかし、これを単なる「上場維持コスト」と捉えるか、世界中の投資家から資金を呼び込むための「信頼への投資」と捉えるかで、企業の成長曲線は変わってくるはずです。
NASDAQ上場とは、世界で最も厳しく、同時に最も公正とされる「透明性の競争」に参加することであると言えるでしょう。
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※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・会計・税務アドバイスを構成するものではありません。具体的な案件については、弊社のネットワークから専門家を紹介いたします。
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