はじめに
2024年のアメリカ大統領選挙が近づく中、市場の変動に敏感な投資家にとって重要な局面が訪れています。選挙年には短期的な不確実性が高まり、ボラティリティ(価格変動)が増加する傾向がありますが、過去のデータを見ると、選挙そのものが株式市場の長期的な動向を決定するわけではなく、むしろ経済ファンダメンタルズが重要な要素です。本記事では、選挙が米国市場に及ぼす影響を探っていきます。
選挙年と市場の関係
1950年からの過去の大統領選挙年のデータの分析によると、選挙年の米国株式市場の平均リターンは平均12%以上という結果が得られています(Nasdaq)。S&P500種株価指数は1960年代以降、ほぼ全ての選挙年に上昇しています。例外は2000年と08年で、それぞれインターネットバブル崩壊と世界的な金融危機に見舞われました。最近の選挙サイクルでは記録がさらに良好であり、2008年以降の3つの選挙年(12年、16年、20年)でS&P500種は少なくとも10%の上昇が見られました。選挙により不確実性が高まるため、市場は短期的なボラティリティが増加することがしばしば見られます。しかし、選挙そのものが市場全体に与える長期的な影響は限定的で、むしろ政策変更や経済指標の方が重要な役割を果たします(Fidelity)。
選挙が近づくにつれて、新たな政策発表や景気刺激策への期待が市場にプラスの影響を与えるため、市場が活発化することが多くなる傾向があります。例えば、2023年のような「プレ選挙年」では、株式市場が強気相場を見せ、これが選挙年にも継続する可能性があります。しかし、選挙の結果が予想外であった場合や、政策変更が大規模な場合には、短期的な市場の混乱が発生することもあります。
注目すべき政策の違い
今回の大統領選には、投資家が注目するべき3つの政策の違いがあります(Bloomberg)。
・税金
共和党のドナルド・トランプ元大統領は、法人税率を現行の21%から15%に引き下げることを公約しています。また、2017年に共和党が主導して成立した税制改革法の恒久化を目指し、同法の主要部分の更新を提案しています。
一方、民主党のカマラ・ハリス副大統領は法人税率を28%に引き上げることを目指しており、年収40万ドル未満の所得者には税率を据え置く一方で、高所得者に対しては増税を検討しています。
・貿易と関税
トランプ氏は、輸入品全般に対して約10%の関税と、中国製品への追加関税を導入する考えを示しています。バイデン大統領は既に今年、半導体やバッテリー、鉄鋼、アルミニウムなどの中国からの輸入品に対して関税を引き上げました。ハリス氏の陣営は、中国との対立をこれ以上深めることは利益にならないと考えており、慎重な対応を見せています。ゴールドマン・サックスの予測では、トランプ氏が当選すれば、関税率がさらに上昇し、個人消費に影響が及ぶ可能性があります。
・移民問題
トランプ氏は、不法移民を強制送還するというシンプルな主張を掲げています。一方、ハリス氏はメキシコ国境での壁建設を含め、移民問題について柔軟に対応する姿勢を示しています。また、バイデン大統領は移民の亡命申請を制限する大統領令を発表しました。JPモルガン・チェースのストラテジストは、移民制限が労働力不足を引き起こし、インフレと経済成長の鈍化につながる可能性を指摘しています。ゴールドマン・サックスの指数では、ハリス氏支持後、民主党の政策バスケット指数が共和党を上回り始めました。
政策の市場への影響
選挙結果によっては、税制や規制が大幅に変更される可能性があり、これが特定の業界に大きな影響を与えることになります。トランプ氏が再選した場合、2017年に導入された「Tax Cuts and Jobs Act (TCJA)」の延長やさらに大規模な減税が期待されます。この政策は企業利益にプラスに働き、特にエネルギー、通信、ユーティリティーセクターに有利な環境をもたらすと予測されています(Morgan Stanley)(TD Economics-Canada)。
一方、財政赤字の拡大が懸念されており、金利が上昇するリスクがあります。財政赤字の拡大は、政府が財政を維持するために資金を借り入れる必要があることを意味し、これが市場全体に悪影響を与える可能性があります。さらに、トランプ氏の政策は保護主義的な色彩が強く、貿易摩擦が再燃する恐れがあり、これがサプライチェーンの混乱やコスト増加を引き起こす可能性があります(TD Economics-Canada)。
ハリス氏が勝利した場合、バイデン政権の環境政策や増税政策が引き継がれる可能性が高く、再生可能エネルギーや電気自動車関連企業が恩恵を受けるとされています。特に、グリーンエネルギー分野では、これらの企業が新たな規制やインセンティブを通じて成長する可能性があります(TD Economics-Canada)。法人税の引き上げや株式買い戻しに対する課税強化は、テクノロジーや製造業に対して一定の圧力をかけることになるでしょう。
長期的な視点での投資戦略
大統領選挙は短期的な市場の変動を引き起こす可能性はありますが、長期的な視点で投資を行うことが重要です。Fidelityなどの投資会社は、選挙結果に基づく短期的なポートフォリオの大幅な変更を避け、経済ファンダメンタルズを重視することを推奨しています(Fidelity)。具体的には、金利政策、企業利益、消費者動向といった要素に注目し、長期的な成長を見据えた投資戦略を立てることが求められます。
また、選挙による短期的なボラティリティに過剰反応せず、冷静に市場の基本的な要因を分析することが重要です。歴史的には、選挙年の市場はプラスのリターンを示す傾向がありますが、最終的には選挙の結果よりも経済の成長や企業利益が市場を動かす主な要因となります(Nasdaq)(Fidelity)。
おわりに
2024年のアメリカ大統領選挙は、短期的には市場にボラティリティをもたらし、アメリカ市場に影響を与える可能性があります。しかし、過去の事例やデータから見ると、選挙そのものが長期的な株価の動向を決定する要因ではありません。金利動向、インフレ、企業収益といった経済ファンダメンタルズが株価の可能性を左右し、これらの要素に注目して投資戦略を立てることが重要です。